静岡県は平成24年度からニホンジカの本格駆除を行うことを決定しましたが、適性数までに減らすのは現状では難しいと思われます。笹が枯れた森は若木が育つ環境となって森が活性化する大切な時期を迎えていますが、若木、新芽はニホンジカに真っ先に食べられてしまいます。食害によって植生の貧相化が進んでしまう前に、森の一部だけでもニホンジカの進入を防いで植生を保存するなど緊急対策が必要です。

 近年、南東斜面の国有林にブナの巨樹の存在が知られるようになり、エコツアーなどで多くの人が訪れるようになった結果、林床の表土が流出するなどの環境破壊が発生しました。
 2006年、地元NPOとNPO法人富士山クラブが協力して自治体、関係団体などに呼びかけ森の環境保護活動を開始、静岡森林管理署と保全策を話し合い、林床の植生回復のため数年間封鎖することを決めて森の仮封鎖を行いました。この活動が私たちNPOの原点になりました。
 保護活動と並行して森の成因調査、植生調査、地質調査など行った結果、1707年の宝永噴火で元の森は消滅し、現在の森は再生してきた第一世代の森であること、南向きの急斜面で、春になると周辺よりも早く雪が解ける典型的な鳥散布(野鳥が種を運ぶ)の地形であることが分かりました。
 斜面一帯にはホシガラスなどがブナの種子を貯食し、食べられずにそのまま残された種が一斉に芽を出し、やがて合体して巨木に成長したと考えられます。ブナの他にも野鳥や風で運ばれた種から芽生えたミズナラ、キハダ、イタヤカエデ、オオイタヤメイゲツ、イヌザクラなどの巨木が生育しており、この森は富士山の火山活動によって形成された貴重な巨木林であることがわかりました。

 林野庁は2011年から群馬県赤谷、宮崎県の国有林などで人工林を伐採放置して自然に返す事業を始め、順調なら全国展開してゆくことを決めました。森を自然に返す試みが全国で始まろうとしています。
 私たちは巨木林周辺の荒廃したウラジロモミ人工林を少しづつ伐採してニホンジカの食害対策を施しながら混交林へと誘導し、富士山の森に生物多様性と水源涵養力を復元するためのモデルケースにしたいと考えます。スズタケが消えて若木が育つことができる環境になった今こそ早急に着手すべき時なのです。

 御殿場口の火山荒原では近年、外来種を含む侵入植物が急速に増加しています。
 雪代跡の緑化を目標に、在来種のフジアザミやミヤマヤナギ(バッコヤナギとされているが誤り)の苗を麓の畑で育て、雑草の侵入を防ぐため土を落として行われてきた植樹活動がしだいに様変わりし、イヌコリヤナギなど、在来種ではない多種の樹木を畑の土と一緒に植栽するようになったことで、外来植物や侵入植物が激増し、御殿場口新五合目周辺で記録された植物の66%が非在来種という状況になってしまいました。各登山道、遊歩道の入り口には土を落とすためのマットが設置され、外部から種子を持ち込まない対策がとられていますが御殿場口では真逆のことが行われています。
 2014年12月、静岡県は植樹活動を行っている団体、地主、環境団体による意見交換会を開催し、侵入植物への対策が必要であることを確認し、各団体間に情報共有されました。当会は早急な対策が必要と考え、2015年より御殿場市環境課との市民恊働型まちづくり事業として御殿場口の生物多様性を保全するための活動を開始しました。

富士山
御殿場口の自然環境と課題